舞台は、静寂に包まれた月面研究基地。『ROUTINE』は、**「カセット・フュータリズム(Cassette Futurism)」**と呼ばれる独特な美学で描かれた、一人称視点のSFサバイバルホラーです。
主人公が基地に到着した時、そこにあるはずの「人の気配」は完全に消え失せていました。残されたのは、80年代のSF映画を彷彿とさせるブラウン管モニターやフロッピーディスク、そしてプログラムに狂いが生じ、無機質な殺意を持って迫りくるアンドロイドたち。
本作に武器は一切存在しません。体力バーや地図などの画面表示(HUD)を極限まで排した没入感の中、プレイヤーに許されたのは「逃げる」こと、そして「隠れる」ことのみ。
美しくも恐ろしい閉鎖空間で、生存者ゼロの謎を解き明かす孤独な探索が始まります。
「カセット・フュータリズム」が作り出す独特の恐怖
「カセット・フュータリズム」がもたらす、汚れた未来のリアリティ
本作の最大の魅力であり、同時に恐怖を増幅させているのが、徹底された**「80年代の未来観(カセット・フュータリズム)」**です。
最近のSFゲームに多い、白く輝くホログラムやタッチパネルのきれいな未来ではありません。ここにあるのは、分厚いブラウン管モニター、物理的なスイッチ、回転する磁気テープ、そして起動するたびに重たい音を立てるハードウェアたちです。
アナログだからこその「重み」
ゲームをプレイしていて特に引き込まれたのは、この「アナログな不便さ」が恐怖に直結している点です。
デジタルなデータ送信ではなく、物理的なフロッピーディスクをスロットに差し込む動作一つとっても、その「カチッ」という音や読み込みのタイムラグが、背後に敵が迫っている状況下では命取りになります。
映画『エイリアン』の第一作目や、『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせるこのデザインは、懐かしさよりも「逃げ場のない閉塞感」をプレイヤーに与えてくれます。ノイズ混じりの画面越しに見る月面基地は、高解像度な映像よりも遥かに不気味で、リアリティを感じさせました。
武器も地図もない。頼れるのは「C.A.T.」と己の耳だけ
『ROUTINE』は、いわゆる「死にゲー」や「ランボープレイ」ができるゲームではありません。徹底したノン・コンバット(非戦闘)スタイルです。
画面表示(HUD)の完全排除
私がこのゲームで最も恐ろしいと感じたのは、HPバーやミニマップが画面上に一切表示されないことです。
自分の体力がどれくらい残っているのか、今どこにいるのか、次の目的地のマーカーすら出ません。現代の親切なゲームに慣れきった私たちは、いかに普段「UI(ユーザーインターフェース)」に守られていたかを痛感させられます。
唯一の相棒は「C.A.T.(Cosmonaut Assistance Tool)」と呼ばれるデバイスだけ。これは武器ではなく、システムへのハッキングや暗い場所を照らすためのツールに過ぎません。
音を聴くことが生存のカギ
視覚情報が限られている分、重要になるのが「音」です。
アンドロイドの重たい足音、通気口から聞こえる蒸気の音、そして自分自身の息遣い。BGMが必要最小限に抑えられているため、静寂そのものがプレッシャーとなります。「音がした=死が近い」というシンプルなルールが、探索の緊張感を極限まで高めていました。
彼ら(それら?)には感情がありません。怒り狂って襲ってくるわけでも、空腹で襲ってくるわけでもない。「排除対象を見つけたから処理する」という、ただそれだけのプログラムに従って動いています。
不気味な「人間臭さ」の欠如
実際に遭遇して怖かったのは、その動きの「不気味さ」です。人間のような滑らかな動きではなく、カクカクとした機械的な挙動、あるいは故障したように痙攣する動き。
「話が通じない」という絶望感が、デザインから滲み出ています。隠れている最中に、すぐ目の前を無表情な機械が通り過ぎる瞬間の心拍数の上がり方は、近年のホラーゲームの中でもトップクラスでした。
【考察】なぜ月面基地は静寂に包まれたのか?
※ここからは、ゲームの世界観に対する独自の考察を含みます。物語の核心には触れませんが、プレイ予定の方はご注意ください。ゲームを進める中で見つかるメモやログからは、かつてここで働いていた人々の日常が垣間見えます。彼らは突如として現れたモンスターに襲われたわけではなく、「日常を支えていたシステム」の緩やかな狂いによって追い詰められていったのではないでしょうか。
便利であるはずのテクノロジーが人間に牙を剥く。それはAIの暴走という単純な話ではなく、人間が制御しきれない科学への依存に対する、80年代特有の警鐘のようにも感じ取れました。
誰もいない食堂、作りかけの資料、散乱した私物。それらが語るのは、パニックの爪痕ではなく、「静かなる消滅」です。この「生活感」が残っているからこそ、プレイヤーである私たちは「自分もいつかこうなるのではないか」という孤独を感じるのだと思います。
まとめ:『ROUTINE』はどんな人におすすめか?
『ROUTINE』は、派手なアクションや爽快感を求める人には間違いなく不向きなゲームです。敵を倒す手段はなく、何度も死んでルートを覚える必要があります。
しかし、以下のような人には強くおすすめできます。
『エイリアン アイソレーション』のような、隠れてやり過ごす緊張感が好きな人
80年代のレトロフューチャーなデザインにロマンを感じる人
説明過多なゲームに疲れ、自分の力で世界を探索したい人
「孤独」を味わいたい人
月面という逃げ場のない密室で、アナログな恐怖に浸る体験。この没入感は、動画を見るだけでは味わえません。ぜひ、部屋を暗くして、ヘッドフォンをしてプレイしてみてください。




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